高知新聞社会福祉事業団 軽費老人ホームA型 軽費老人ホームA型 あかねの里

お問い合わせはこちら
  • 088-844-1313
  • 高知市朝倉丙1644番地1

施設長のふれあい日記ご意見・ご感想などはこちらにお寄せください

掲載日:2017年9月24日

加齢での矛盾

 自転車通勤のうれしいところは、ペダルを踏みながら周りを眺める時間を持てることです。南国高知も朝夕は肌寒さを感じ、通勤路のJR沿線一角には彼岸を象徴するヒガンバナが満開です。こちらでは赤の花、向こう側では白の花を見ることができます。他にはどんな花が咲いているのかとキョロキョロし、利用者との会話の材料を探す楽しみもあります。

 加齢とともにできることが少なくなると、失望し やる気を失せる、というのは一般論かと思いますが、逆に加齢により幸福感が得られるようになる、との研究が大阪大学の権藤恭之准教授により進められています。70歳前後、80歳前後、90歳前後の3グループに分け調査したところ、加齢とともに後ろ向きの気持ちが薄れ、前向きになっていくことが分かったと言います。専門用語では「エイジングパラドックス」と言われ、日本語なら加齢での矛盾と訳していいかもしれません。例えば、退院した108歳の女性に尋ねると、「退院できたことではなく、生きていることが幸せ」、トイレに自力で行けず介護を受けている104歳女性は「不自由だが、娘の話し相手になってあげられるから」と幸福感を語っているようです。

 矛盾の解明として、状況に応じて目標の選択や調整を行い、限られた能力や時間を効率的に使えるよう工夫し、そして他人の助けや新たな補助を前向きに活用することを先生はまず挙げています。また自身の落ちた体力などに対し「いや、これでいいのだ」ととらえ直し、納得することです。心理用語でいう「自己肯定感」ですね。さらに晩年を迎えた段階では、辛いことより楽しいこと、うれしいことに目を向けて、心が安定する方向に進むことだと言います。体が思うようにならなくなり、寝たきりになっても、昔の楽しい思い出を心に浮かべ、できる新たな楽しみを見つけて過ごしているようです。辛い状況も自然なことだと適応できるらしいのです。専門用語で「老年的超越」と呼ばれます。ここまで来ると、いかなることにもなかなか超越できない凡人の私は、今はやりの若者言葉で「老年的超超越」と言いたくなります。しかし、このような変化については先生は高齢者の心の発達段階であり、努力の成果ではなく無意識のうちにできると断言しています。

 私たちの施設に104歳の女性利用者がいます。新聞を1日30分ほどは読み、「新しいことを知ることができ嬉しい」と満足げです。縫い物も続けています。針に糸を通すのに職員が助け船を出すと、「あなた方と違い時間はたっぷりありますから」と微笑み、10~20分位は要しますが、やり遂げます。頼ることは少なく、温厚で物静かで、食事が終わった後はいつも「おいしかったです。ありがとうございます」とのお礼を重ねます。職員は「冗談も言うし、ほがらか」「他人を怒ったことを見たことがない」「廊下で30分立ち話をした」「ここは天国、幸せが彼女の日々の言葉」「200点満点。悪いところを探しても見つからない」……などと続きます。

 職員の言葉を反芻しながら、これは先生の主張する超高齢者が幸福感を得る三つのパターンの現れと思います。先生に負けず、百寿者の幸福を彼女から職員一同が学び取り、幸福な百寿者をさらに増やしていけたら、職員も同じくらい幸福になれると夢は膨らみます。

一覧へ戻る

PAGE TOP