高知新聞社会福祉事業団 軽費老人ホームA型 軽費老人ホームA型 あかねの里

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掲載日:2017年12月29日

閑古錐

 「閑古錐(かんこすい)」。長い年月使われ続け、先が丸くなり、鋭利でなくなった錐(きり)のことです。一読すれば「閑古鳥」を思わせますが、新しい錐より切れ味はよくないが、人をけがさせず特殊な細かい技にはすぐれている、というところまで意味は深まります。禅宗の言葉としては真の修行者、円熟した道者への尊称を意味します。閑には「静かに落ち着いている」という意味もあり、閑古錐にはどっしりとした風情、老成、風格といったものを感じます。

 実際、施設で高齢者一人ひとりに接していると、閑古錐を思わせます。功成り、名を遂げるといったことにはさほど関せず、古錐のように長年、社会で必要とされた役割をこつこつ果たし、そして今ここに静かにいると感じます。筋肉も脂肪分も少なくなり、骨はゴツゴツと浮き上がり、しわが幾重にも重なり合っています。陽ざしに長くさらされてきた分、肌はやや浅黒く、さらに黒い染みがあちこちに現れているのも風格。80年、90年…と人生を積み重ねてきた歴史であり、容貌に目がしばらくとどまります。

 人の知能は、流動性と結晶性との二つがあるそうです。流動性知能は推論する力、思考力、暗記力、計算力などが挙げられます。流動性知能を活かすことができれば、独創的なアイデアが生まれる可能性があり、いろいろな研究や高校・大学の受験に試される能力です。結晶性知能は日常生活の状況に対処する力で、豊富な経験や知識にもとづいた判断力とか思考力、あるいは統率力といった高度な知能です。過去の学習経験を適用して得られた習慣、つまり積み重なった経験が結晶化されたものを指します。分かりやすいことわざなら「すずめ百まで踊り忘れず」「三つ子の魂百まで」といったところでしょうか。

 流動性知能は加齢とともに生じる脳の器質変化(組織や細胞が変形、変性、あるいは破壊されて戻らなくなる変化)で低下しやすく、20代半ばをピークにして緩やかに衰えていきます。集中力も流動性らしく、やはり年齢とともに落ちてくるのでしょうか、自らを振り返っても昨今、長続きがしないようです。また、人にもよりますが加齢とともに「知的好奇心」が欠けてくるのもこのせいです。一方、結晶性知能は経験の積み重ねですから、加齢による低下が少ないのが特徴です。認知症の患者でも結晶性知能は保たれていることが多いようです。

 高齢者を語るとき、「○○問題」といったものが多く含まれます。身内の介護をするために仕事をやめる「介護離職問題」、団塊の世代の全員が75歳の後期高齢者となり、介護の担い手が足りなくなる恐れのある2025年については「2025年問題」など。中には高齢者を否定したような「高齢者問題」、負の面でとらえられがちです。諸先生方の「議員問題」はなかなか検索できません。

 ここは一つ、結晶性知能を持つ人として長老を生かすことができないでしょうか。静岡県のある介護事業所でそれまで築かった生活の知恵などを語ってもらううちに、介護する側と介護を受ける側との立場が変化、「利用者への理解と敬意が深まり、利用者が主役になる環境ができた」と言います。ましてや元気な高齢者は5万といます。このような知識や知恵は、私たちのこれからの社会、生活を支える大きな手立てになると思うのですが。

掲載日:2017年12月11日

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