高知新聞社会福祉事業団 軽費老人ホームA型 軽費老人ホームA型 あかねの里

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掲載日:2016年12月15日

暮れは「芝浜」に感涙


 「よそう。また夢になるといけねぇ」
 と妻の勧める、ねぎらいの酒を主人公の魚屋稼業・勝が断る落ちの落語「芝浜」。歳晩の一日、「CD落語鑑賞会」を利用者ともども楽しみ、涙しました。芝浜は、師走の落語の代表的演目にもなっており落語家が競演し、芝浜を聞かないと年を越せないという落語ファンもいます。ベートーベンの「第九交響曲」の演奏と並ぶ師走の風物詩となっています。

 高齢者を取り巻く経済環境は決して良いものではなく、しかも働く現役世代と違って自分の努力で環境を変えるということもできにくく、時折、長寿を喜ぶどころか、不安がる声を聞きます。せめて心は明るく、そして笑いで免疫力を高めたいと今年4月、高知県俳句連盟の小野山征男さんをお招きし、川柳教室を開講しました。最初は俳句作品が多かったのですが、今は拮抗しています。「一日一笑」を標ぼうするホームとしてはさらに川柳作品が増えてと望みますが、先生から笑いが消えるといけませんから、痛しかゆしです。もうあと2週間もすると新年ですから鬼も笑わないと思いますが、来年はひと月に1回、落語の日を設けたいと思っています。演じるのはさすがに無理ですが、「一日一笑」の一つで、笑い転げてもらうのが願いです。あれこれとクラブ活動が増えてきていますが、利用者の頭の成長を目指してです。

 「芝浜」のあら筋は、拾った大金で大酒をのみ、翌日二日酔いで起き出した勝に、「大金は夢の中のこと」と妻が嘘をつく。その言葉をきっかけに勝は酒もやめ、一生懸命に働き続け、仕事も成功した3年後の大みそかに妻が嘘を告白。ねぎらいの酒を勧めるが、「また夢になる」と勝五郎が拒んで締めくくります。人情話ですが全体的に笑える部分も多く、聞き終わったあと心が浄化された感じがします。

 故立川談志さん演じた芝浜は、立ち直りへの貢献や恩恵を描いた「できた嫁」よりも、長い間いつわり続けていたことを謝る「愚直な嫁」に重きが置かれているようでした。「すまない。申し訳ない」「私をぶっておくれ」などと涙ながらの口演は最大の聞かせどころで、グイグイ引き込まれ、涙がこぼれます。「芝浜は談志さんでないと駄目」と、CDの前でも威儀を正して正座しての鑑賞という人もいますが、勝を演じる場面では破天荒だった談志さんが乗り移った感じがします。

 この一年、ホームの利用者は健やかに落語や川柳を楽しみ、笑いのひと時を過ごすことができました。医学的なデータはありませんから、成果はどのくらいなのか分かりませんが、観賞会、教室では笑いが渦巻いており、狙いは当たったようです。そして、締めくくりが人の心を温める人情話。その中でも夫婦が助け合い、支え合う、愛情あふれる芝浜でした。新しい年の夫婦のありようも祈願して、この時季の演目になったのかもしれません。

 今晩15日も寒さが一段と増し、あすの天気は強い冷え込みを予報しています。私は相方に熱かんを一献傾けて感謝、一年を締めようと思います。「おーい!酒 冷めないうちにと 妻を呼ぶ」。「おーい!お茶」の立場を逆転したねぎらいの川柳です。

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