高知新聞社会福祉事業団 軽費老人ホームA型 軽費老人ホームA型 あかねの里

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掲載日:2017年10月4日

希望する最期を


 この10月から横倉義武日本医師会会長が112カ国を束ねる世界医師会会長を務めています。68代目で日本人として3人目です。任期中の大きな議論に挙げられるのが終末期医療の在り方です。各国の宗教観、司法の在り方が千差万別ですが、「患者の意思を尊重することが大事で、折衷案を見つけていく」と話しています。

 終末期医療の定義ははっきりしないところもありますが、病気や事故、老衰などで治療回復の見込めない患者の医療で、心身の苦痛を和らげ、残された時間を穏やかに過ごすことも目的の一つになっています。具体的には薬物投与や人工透析、人工呼吸、また輸血、酸素吸入、栄養や水分の補給などを指します。厚生労働省は2007年、本人の意思決定を基本に医療行為を始めないことや中止することは医療側が判断するとの指針を示しましたが、患者が終末期の状態にあっても延命治療を望まない場合には、その意思を尊重します。

 高齢化は今後さらに進み死亡者は急増、1年間の死亡者数は2000年に96万人でしたが、15年には129万人となりました。団塊の世代すべてが後期高齢者になる25年は約153万人、40年には約169万人となるとの予測もあります。いわゆる「多死社会」では看取りの場所などを含め、人生の最終段階における終末期医療をどうするかは国民一人一人が考える時期になっています。

 厚労省はこの10月から終末期医療について患者や家族の意思決定する際の支援や普及啓発を図るため国民や医療・福祉従事者らを対象に意識調査を始めます。5年に1度の調査で、今回は調査対象者を5,000人増やし全国の2万3,000人、来年3月に報告をまとめます。現実的には事前に延命治療の是非を話し合っていないなど終末期医療への理解不足から意思に沿わない治療をされるケースもあると言われます。そんな一例として胃ろうが挙げられます。胃ろうは、消化器官は機能しながらも口から食事が取れない、食べてもむせこんで肺炎などを起こしやすい人などにチューブで胃に直接栄養を投与する方法です。既に認知症などを患い意思表示ができなくなった段階で、家族らの思いで胃ろうが設けられることも多いようです。

 私たちの施設でも昨今、終末期医療のみでなく、高齢期治療の在り方に留意する利用者が表れました。日常の会話でも胃ろうなどを希望する人、延命を求める人がはさほど多くないような気がします。病状が悪化した折にも入院治療を望まない人もいます。「ここまで長生きできたのだからもう治療は結構。このまま施設で静かに見守ってもらえれば」とも言います。施設での往生、施設を終の棲家(ついのすみか)にしたいとの気持ちも見て取れます。医療関係者を招き医療の勉強会をし、急変時などの意思確認を事前に取ることはできないかと考えています。

 一方、病で苦しんでいない人が自分の未来を十分に想定できるのか、書き残したものが法的にも適正なのか、また「身辺自立した人の施設」でありながら看取りへの体制は可能なのかなどと、施設を挙げて検討、模索する課題もたくさんあります。利用者の意思も時間経過とともに変わるのでしょうが、自らの医療への意思があるのならば、それを汲み入れる方策は重要かと思います。

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