高知新聞社会福祉事業団 軽費老人ホームA型 軽費老人ホームA型 あかねの里

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掲載日:2017年10月31日

自らの意思による最期

 「猿楽師の世阿弥は老いてのちの初心を説いています。能に例えると人生最後の舞台とも取れる訳で、死に臨んでいかに立ち振る舞うか、自分の意思は大切かと思います」「西行は釈迦入滅の日に死ぬよう死を逆算したとも伝えられますが、自分の死を想定しながら豊かな生き方、死に方を模索したのではないでしょうか」。延命措置を断り、自然死を迎える尊厳死について知りたく日本尊厳死協会四国支部・高知に野中事務長を訪ね、死生観、死の哲学も少し学ぶことができました。

 元気な高齢者が集う私たちの施設も「残された身内は遠くにいる遠縁だけとなり、重病のとき迷惑を掛けたくない。延命の意思がないことを書き残したい」との相談を受けるようになりました。家族が先に亡くなり、家族がいてもすべてが県外に居住、もしくは利用者本人が生涯独身を通しているなどの例もあります。延命治療は、人工呼吸器の装着や栄養を補給する対処的措置により治ることのない末期に延命を図ることが目的。点滴により体がむくんで苦しむなどの欠点もあり、延命に伴う苦しみを解放する見地から自然死、尊厳死が考えられています。家族の居住地と尊厳死とは直接関係ないと思いますが、家族構成はさらに縮小する様相で、この点からも新たに尊厳死を考えていく必要があります。
 
 事務長は、団塊の世代すべてが後期高齢者になる2025年に700万人が認知症を患い、年間の死亡者は154万人を超えるとの推計があるのにもかかわらず尊厳死の論議は進んでいない、人生の末期を他人任せにせず自分で決定する国民の意識変革が基本となると話しました。さらに病院は死ぬ場所でなく治療をして家庭に帰すことが役割ですが、今は病院で死ぬ割合が8割にも上り、中には望まない延命も含まれているようですと続けました。

 そして尊厳死協会の「尊厳死の宣誓書」について言及しました。病気や事故などで意思表示ができなくなったときに備え、自らの意思を尊重した治療をしてもらうための書き置きで、単に死期を引き延ばすだけの延命措置を断る旨の宣言書に署名します。協会はこの書類を2通コピー、合わせて3通作り、1通を協会で保管、1通は本人、後の1通は近親者が所持し、必要なときに医師に提示する仕組みです。9割以上のケースで本人の意思が生かされ、医師がこの表示書を容認しています。他にも特定の病院がこしらえたものに「事前表示書」があり、家族の同意書欄や事前表示を確認した医師の署名欄が設けられています。気持ちが変われば何度でも書き直すことができます。これ以外にもやや経費がかさみますが公正証書で残すこともできます。

 厚生労働省の調べでは事前表示書などの作成について国民の70%が賛成、27%が分からない、反対が2%でしたが、事前表示書などの作成は国民の3%にとどまっています。高齢者を預かっているのにもかかわらず私たちの施設でも職員の意識はまだ高いものではありません。お隣の徳島の県立3病院は連携し事前表示書を預かり、患者の意思に基づいた終末期医療に取り組んでいます。国民の意識が高まり、日本全国すべての医療機関で主治医が表示書を預かり、緊急時にはすべての医療機関で患者情報が共有されれば、終末期の画期的な医療が進むと期待はしているのですが。

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